入社一年目。パン職人として働くことにワクワクしていた私を待っていたのは、想像以上にハードで、想像以上に学びの多い毎日でした。
技術も、体力も、心の強さも足りない。それでも、目の前のパンと向き合い続けるしかなかったあの一年。失敗と成功を繰り返しながら、“仕事としてのパン作り”の本質が見えてきました。
はじめての現場、想像とのギャップ
入社式が終わり、配属先が決まって、いよいよ現場での仕事がスタートしました。まずは接客業務からということで、私は最初の1ヶ月ほどパンは作らず、販売に専念していました。
そこで最初に驚いたのが、開店直後から並んでいるパンの“種類の多さ”です。朝7時という早いオープンにもかかわらず、棚はびっしりとパンで埋め尽くされていて、甘い系・惣菜系はもちろん、バゲットやクロワッサン、菓子パン、食パンと、まるで専門店がいくつも集まったようなラインナップが並んでいました。
販売の私は出勤も比較的遅く、退勤も夕方頃でしたが、厨房では私よりもずっと早く来て、私よりも遅くまで作業を続けている先輩方の姿がありました。その光景を見ながら「1ヶ月後には自分もあの厨房に立つのか」と思うと、期待よりも少し不安な気持ちの方が大きかったのを覚えています。
現場のスピードに圧倒された厨房デビュー
緊張の中迎えた現場初日、私は先輩方より少し遅い時間で出勤し、最初に入ることになったのは“めん台”と呼ばれる成形ポジションでした。慣れない私は、店長と向かい合わせになり、一つひとつ教えてもらいながら作業を始めました。
パンの名前こそ販売時代に覚えていたものの、「どの生地がどのパンなのか」「成形の種類や手順」「具材やフィリングのグラム」「どの作業を優先すべきか」覚えることが多すぎて、頭の中は一瞬でパンク状態。目の前の作業についていくのがやっとでした。
そんな中、私の正面で淡々と手を動かし続ける店長の姿に圧倒されました。成形の正確さ、迷いのない動き、そして私の3倍はあるスピード…。圧倒的な差に打ちのめされそうになりつつも「食らいつくしかない」と自分に言い聞かせ、毎日必死に作業へ向き合う日々が始まりました。
“できない自分”から抜け出すための工夫
日々覚えることが多い中、作業面でもなかなか先輩方に追いつけずにいました。そんな時、学生時代のインターンで言われた“もっとがむしゃらにやりなさい”という言葉を思い出し、自分に足りないものは何かを改めて考えました。
その答えは、“圧倒的に足りない試行回数”でした。同じパンを成形するにしても、先輩方と私ではこれまで積み重ねてきた数が桁違いです。そして、このままのペースでは、その差は埋まるどころか広がり続けるだけだと気づきました。そこで私はめん台の生地を自分の方へ寄せ、「これは私にやらせてください」と、自分から手を挙げるようにしました。半ば強引だったかもしれませんが、とにかく数をこなす環境を自ら作りにいきました。
その行動をきっかけに、徐々にスピードが上がり、他の仕事にも自然と取り組めるようになったのを覚えています。
がむしゃらに走り続けて見つけた“自分なりの成長”
とにかく量をこなすことに振り切ってからは、スピードも少しずつ上がり、自然と成形のクオリティも安定していきました。めん台を一人で任せてもらうようになり、徐々に新しい仕事も教えていただき、1年目が終わる頃にはカマポジションと仕上げのポジションまで任せてもらうようになっていました。
振り返れば、あっという間に駆け抜けた1年でした。がむしゃらに仕事と向き合い続けた日々、学生時代の学び、そして多くの方に支えてもらったことが、確かな成長につながっていたと実感しています。
そしてこの経験が、「パン職人として生きていく」という覚悟をより一層強くしてくれました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。この記事が少しでも誰かの参考になれば幸いです。

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